出版物

【ジャーナリズム叢書】デスク日記

「デスク日記」編集秘話を『東京都市大学ジャーナリズム研究室HP 雑魚亭日乗(ブログ)』より一部抜粋してお伝えします。

何でたかだか余り内容のない、いやこのブログ自体がそうなのだが、卒業式の話を書くのに1週間もかかったかと云えば、連日「弓立社」の新刊『原寿雄自撰 デスク日記 1963~68』(小和田次郎)の準備に忙殺され、さらに大学の新学期の準備や退学する学生、編入生、ゼミ希望者等々の対応に追われていたうえ、「ゆかり協会」のM国浩晃さんの著作の編集作業に入ったりしていたからだ。しかも義母の病院のことも頭の片隅から離れないし、と言い出したら「俺のところはもっと大変だった」と大勢の友人から言われそうだが、物理的というより精神的に忙しかった。
まずは、完成した表紙と帯をご覧いただきたい。

帯の文章は、いまや超有名人になったN協会の先輩というか、5方面(池袋警察署の察回り)、社会部警視庁時代からの先輩である、I上彰さんが引き受けてくれたことはすでに書いた。しかもタダで。
装丁は、私が尊敬を通り越して「畏怖」しているR太郎さんにお願いしたのだが、実にセンス良く仕上がっている。まぁ細かい注文が多くて、ある種「装丁は芸術」なのだと認識を新たにさせられる。この出版社の創設者、つまり私にタダで譲ってくれたM下和夫さんの「出版社を続けるということ」(元々は『彷書月刊』に連載していたものを、弓立社刊の『ドキュメント吉本隆明』『ドキュメント』に転載していた)の中に、装丁は自分でやっていた話が出て来る。
<装丁を、それまでは自分でやっていたのを、優秀だがまだ売れていないデザイナーや、メジャーでも好きな漫画家に頼んだりした>
この辺が「M下さんのM下さんたるところ」で、装丁家もそうなら書き手も在野の無名の人を発掘していて、しかもその“先見の明”にはしばしば驚かされた。
この機会に、M下さんと私の関わりを少し紹介すると、鹿児島時代に遡る。1976年のことだ。私は初任地が鹿児島局で、ここにはいまはもうなくなったのかもしれないが、「春苑堂書店」という、地元の老舗の大きな書店があった。東千石町という天文館の中でも照国神社や城山観光ホテルよりの繁華街の一角にあった。私は警察担当だったので、そこから近いところにある県警本部に詰めていた。
夕刊は地元のM日本新聞しか出していないので、皆のんびりしていて、昼のニュースが終わると昼食を兼ねてぶらぶら出かけ、帰りに「春苑堂」に顔を出すのが習慣だった。独り者で買う物もないので、給料は大体本代かレコード代に消えていたし、酒はボーナスの時までツケの効くところで飲んでいた。ボーナスの9割以上は飲み代だった。休みの日は「警戒要員」という名目で、先輩記者から「何もしなくていいから、県警クラブのベットで寝てろ!」といわれ、後輩のY田哲ちゃんや山田英幾さんが来るまでは、土日もなかった。
そんな環境だから、鹿児島のオアシスは、春苑堂だった。ここの店長をしていたのが、Y田ボンと呼ばれる地元の名士の息子で、東京のK出書房社を辞めて鹿児島に戻ったばかりだった。その関係で、東京の出版関係者がよく顔を出していた。K出といえば、吉本隆明さんの『共同幻想論』を出した社だけに、私自身結構憧れていて、天文館で彼と飲みに行っては、文壇話を聞かせてもらった。今でも覚えているのは、埴谷雄高が夜の11時過ぎに会社に電話をかけて来て、「いま新宿で飲んでいるんだけど、お金が必要んなんだ、持ってきてくれないかと言われて、届けに行ったことがある」と聞き、あの埴谷雄高がそんなことを・・・と驚いた。
その頃、私が傾倒していたのが、「弓立社」の本だった。以前書いたかもしれないが、M下さんはT間書店の編集者をしていたころ、吉本さんの『自立の思想的拠点』を編集した。私はこの本が好きで、いま手元にないから記憶が頼りだが、「日本のナショナリズム」とか「情況とは何か―知識人と大衆」とか「ある編集者の死」が収録されていたと思う。「ナショナリズム」は、学生時代に何度読んでも理解できずに、ノートに書き写したり、バカな自分を恥じたりした。いまでもきっと同じだと思う。
そのM下さんが、会社を辞めて弓立社を設立し、『敗北の構造』を出したのが、私が2年遅れで大学に入学した年、つまり1972年だった。朱色の表紙カバーがひときわ目について(後に黒っぽいものに変えたのもあったような気がする)、しかも色見本のようなカラーのページがいきなり何ページも出てきて戸惑った。この本で、衝撃を受けたのがM下さんを知るきっかけとなる。(この項、つづくきっと断片的だと思うけれど)

雑魚亭日乗 「出版準備完了 ゼミに関する覚え書き,2013年3月28日」より

コメントを残す

*

スパム(迷惑投稿)対策のため、お手数ですが、以下に数字を入力してください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください