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【新聞掲載】人生は夕方から楽しくなる 元NHK社会部記者 屁のように生き、老人力同盟はゆく

毎日新聞2018年5月25日夕刊「人生は夕方から楽しくなる」より引用

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その夜、東京・新橋の某酒場で「老人力同盟」なる聞き慣れぬ団体の第1回全国大会があった。「還暦」「定年」という言葉に敏感になりつつある記者としては、これはニュース、と駆けつけたら、20人ばかりの同盟員らはジョッキ片手に「万国の老人よ、団結せよ!」とわきあいあい。とりわけ、まん丸笑顔で冗談を連発していたのが事務局長、小俣一平さんだった。

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 「NHKにオマタあり」。伝説の敏腕社会部記者として語り継がれている。東京地検特捜部にめちゃめちゃ強かった。58歳で退職後は大学で教え、探訪記者として「坂上遼」のペンネームで書いている。「坂の上の雲」の司馬遼太郎にちなんで。さらに出版社の社長も。その出版社のある神保町の喫茶店でお会いした。何足のワラジを? 「いくつやろ。一番なりたかったのは新聞記者。毎日新聞のね。おやじがそうでしたから。でも、ちょうど試験がなくてNHKに行きました。政治家にもなりたかった。記者時代、郷里から出馬の話もあったけど、家族に猛反対されて。坊さんも夢でしたが、それは友人と設立した一般社団法人ゆかり協会の活動を通じ、終末、エンディングにいかに備えるか考えています」

 まさに現役もたじたじの忙しさだが、ひょいひょい遊んでおられる感じがいい。「老人力同盟」も? 「アハハ、綱領だってあるんですよ。老人力エネルギーを社会に還元し、積極的な社会参加を目指す。老人が安心して穏やかに暮らし、最期を迎える社会実現を目指す。そもそも老人力って言葉は作家の赤瀬川原平さんの造語です。腰が痛い、目がかすむ、物忘れをするとか、そうした老化現象を前向きにとらえる。同盟というのもカメラ好きだった赤瀬川さんの<ライカ同盟>からのパクリですから。古い友人、ジャーナリストの二木啓孝さんが現在、最年長だから会長でね。彼は言ってたな。人生でやり残したことをやるんだって。それもいい」

 荷風散人の「断腸亭日乗」ならぬ「雑魚亭日乗」と銘打ったブログを毎日つづっている。鋭い社会批判かと思いきや、そこはほんわか老人力ワールド。香典返しに超特選の日本茶をもらったら。<私が老人だと認識されて来たからかもしれない。老人って縁側に座布団出して、日本茶飲んでるイメージがあるもんね>。散髪した日は。<朝風呂で頭は洗ったし、髭(ひげ)は剃(そ)ったばかりなので、唯一ある側面の伸びた髪のみをハサミでカットしてもらう。あぁ、鼻毛も耳の中の毛も綺麗(きれい)にしてくれる、この間11分だった。料金は1100円。1分100円とは出来過ぎ君や……。申し訳ないので帰るときに「髪が無くてすみません」と謝ったら、「いいえ、いいえ」と言っていたが、そうとしか応えようがないわなぁ>

 「ホント、おぬしは屁(へ)のようなみたいなことばかり書いていますよ。屁というのは形は見えない。でも、においはするでしょ。普段はいてもいなくてもいい。まあ、それでもどこかで存在感は出したい。政治的な主張は避けているんだけど、たまに臭いのを一発かまさないと我慢できないっていうのがあるからなあ。国会前のデモに出かけた話とか、1年に数えるくらいですけど。強烈な一発は」

 「臭い」といえば、2年にわたって週刊文春で「『トイレ探検隊』がゆく!」を連載していた。たまたま飛び込んだ公衆トイレで遭遇した和式便器、膝を悪くしていたから、しゃがみこんだら立ち上がれない。そこは探訪記者。「すぐ日本中のトイレ事情をルポしようと企画書を書いてね。トイレ探検隊員を募集したら、200人以上も集まって。まさにトイレは文化のバロメーターだと納得しましたよ。僕はいつも下から目線ですから」。近く無料のマスコミ塾を手伝う。「NHKの先輩だったジャーナリストの手嶋龍一さんが塾頭です。面白いやつをすくいあげたいね。そうしないと日本のメディアがダメになる」。それだけ言い残し、屁のようにどこかへ消え去った。【鈴木琢磨】

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