きのう(9月16日)は、月1回の糖尿病の検診の日で、朝10時過ぎから銀座5丁目のMクリニックに行く。行くたびに先生(M田善二さん)の新刊書が受付カウンターに並んでいる。B藝春秋のM井清人さんの紹介で行き始めたころは、まだB春から1冊出したばかりで、クリニックも銀座1丁目はずれの小さなビルの4階だったか5階だった。B春の影響力が凄いのか、糖尿病で悩む人が多いのか、先生の応対がソフトで安心させるためか、いつのまにか患者で溢れるようになった。それに比例するように広さも4~5倍くらいになった。先生同様、奥さんも気さくな人で、よく笑っている。私が「奥さん、笑いが止まらんでしょう。三越の角当たりで大きな口あけて笑っとるのと違いますか」とからかうと、「そんなことないですよ、はっはは」とまた笑う。「笑う門には福来り」というのは、けだし名言である。で、ヘモグロビンA1Cの数値は7.2と前回と同じだが、アルブミンは一気に下がった。さすが名医だ。まずは、良し。

 M田先生の日は、銀座に行くので診察のあとはフリーにしている。伊東屋に立ち寄ろうかとも考えたのだが、10月2日に娘と手帳フェアーに行こうねと約束しているので、今日はパス。気まぐれに、ほんと気まぐれにで浅草のH田カメラに行こうかと地下鉄に乗り込んだ。ら、なんと日比谷線だ。面倒なので、八丁堀で降りて、昔良く食べた「みかわや」の天麩羅にしようか、大島屋の二層うな丼にしようか・・・と考えているうちに電車ははや茅場町。仕方がないのでそのまま上野まで。

 こういう目的もなく、というのがいい。暑いな。駅前の古本屋で『真相』なんて古い古い雑誌を見る。猥褻本、いや失礼芸術本のコーナーでは、若者と50台と思しきおっさんが、向き合って雑誌に見入っている。スケベーは好いな。私はまだ超越していない未熟者のせいか、ああいう場で手にとって大胆に見られない。普通の古書店に行くときちんとジャンル別になっているのだが、ここはいつも雑然としていて、戦争ものの間に小説や花の本が並んでいたり、それはそれで探す愉しみがある。インターネットの古本屋では、目標を定めて探すから、こうした古本巡りは味わえない。(著者名で探すとか、キーワードで探すとインターネット古本屋巡りは出来るけどね)

 美術館に入ろうと鴬谷の方に向かって坂道を歩くが、中学生の修学旅行なのかやたらとガキが多い。さらに長野県から来たのだろう、横文字で「M本大学」と書かれた大型バスが止まっていたり、見学者が多すぎて引いてしまう。いろんな大学があるんだなぁ・・・と思いながら林の中を抜けて、芸大の通りにでる。この界隈は好きだな。左遷されていたころ、暇だったのでたまに散策に訪れたり、映画評論家のS井佳夫さんの講義を聞きに来ていた。

 その芸大のホール内にある文具店でしか売っていない(はず)のハガキ大のノートが好きで、30冊ほど買ってきてノンフィクションの取材ノートとして使っていた。リング式で、右下に「T京芸術大学」の校章と校名が印刷されている。表紙のカラーがワインレッド、グリーン、黄色など何種類かあってその色が何とも云えないセンスの良さだった。入ろうか迷ったが、荷物が増えるのが嫌なので止めてタラタラ歩く。日陰を選んで歩いていると上野桜木町から谷中に入る。ちょっとした京都の小路を連想させる街並みだ。そういえば大学院のO野祐介君が手伝っている喫茶店がこの辺じゃないかなと、ぷらぷらさんさき坂を下る。

 Y中小学校の斜め前の「さんさき坂カフェ」に気づかず通り過ぎて下っていると、誰かが呼ぶ。「おまっちゃん!」とか「いっぺいちゃん」の声もある。「寄って行きなよ」「いらっしゃいませ」。聞き覚えのない声だ。この辺に知り合いはいないはずだが・・・。あたりを見まわして、分かった。『日之本帆布』と看板がある中地下(なんて言葉あるのかな、イメージ、イメージ)の店の入り口付近からその声は聞こえている。なんだ、なんだ・・・。モスグリーンがベースだが、少し灰色がかった何とも言えない味わい深い色。A4がすっぽり入る「帆布」の鞄が、私を呼んでいたのだ。(9月17日am6:54)